脊椎脊髄外科診療

脊椎写真
脊椎グループ

森田智慶(月?水曜日)、塚本有彦(火?木曜日)、福士龍之介(火?木曜日)が担当しています。

頚椎疾患の手術について

上肢の痛みやしびれ、手指の機能障害を生じる頚椎椎間板ヘルニアや頚椎症性脊髄症、頚椎症性神経根症に対しては、症状が軽い場合には薬物治療、注射、リハビリなどの保存治療を行うことが一般的です。保存治療で改善することもありますが、症状が良くならない場合は、手術治療が必要な場合があります。

神経の圧迫を解除する手術には、おおまかに後方進入法と前方進入法の2通りがあります。後方進入法は、神経の通る脊柱管を構成している椎弓の一部、靭帯を取り除き、神経の圧迫を解除する方法です。

前方進入法の手術としては除圧固定術が一般的に行われています。除圧固定術は椎間板や骨棘などの神経圧迫を取り除き脊椎固定を行ない、神経周囲の環境を整え、神経症状の改善を目的とした手術です。この手術法は神経が保護される効果がある一方で、隣接椎間障害という弊害を生じるリスクがあります。隣接椎間障害とは、固定部位の上下の隣り合った椎間に、大きな動きや負担が生じ、あらたな変性が起こってしまうことです。長期的に別の椎間レベルに神経障害が生じる可能性もあり、固定術後10年間で約10?20%に発生すると報告されています。

同じく前方進入法の手術として、日本では2017年12月に認可された治療法「頚椎人工椎間板置換術」という手術法があります。(海外では15年以上の臨床実績があります。)

頚椎人工椎間板置換術は、従来の固定術とは異なり、可動性を保持する人工椎間板を挿入することで、手術部位の上下の椎間板への負担を軽減し、隣接椎間障害のリスクを低減することを目的としています(図)。前述の従来法(除圧固定術)では、椎間板を摘出した後、金属製のプレートやケージで椎間を固定するため、頚部の可動性が失われます。一方、人工椎間板置換術では、可動性のあるインプラントを挿入するため、可動域をある程度維持できます。

以上のように頚椎疾患に対する手術法は複数ございますが、当科では、全症例にカンファレンス(症例検討会)を行い、脊椎チーム全体で、患者さんに最も適切な手術適応の決定を行っております。以上のように頚椎疾患に対する手術法は複数ございますが、当科では、全症例にカンファレンス(症例検討会)を行い、脊椎チーム全体で、患者さんに最も適切な手術適応の決定を行っております。

頸椎

腰部脊柱管狭窄症

加齢変性により脊柱管が狭窄し神経組織が圧迫されることで(図1)、下肢のしびれや痛み、重だるさなどの症状が出現します。典型例では、立位や歩行により症状が悪化し、休息をとることで軽快しします。消炎鎮痛剤やビタミンB12製剤、プロスタグランジンE1製剤などの薬物治療を行いますが、効果が不十分な場合は手術を行います。当科では低侵襲な術式である、内視鏡下除圧術(図2)や棘突起縦割式椎弓形成術を行ない、早期社会復帰を可能にしています。また、腰椎にすべり(ずれ)や不安定性が合併している場合は、固定術の追加を考慮します。
LCS Fig1

腰椎椎間板ヘルニア

椎間板の一部が後方に突出して神経を圧迫することで(図1)、下肢の痛みやしびれ、筋力低下などの症状が出現します。初期には痛みが激烈なこともありますが、70?80%は自然と改善することが知られています。したがって、高度の麻痺を呈する場合などを除き、すぐに手術が必要な症例はほとんどありません。痛みが長期間続く場合には手術を行います。当科では低侵襲な内視鏡下椎間板切除術(MED)を行い(図2)、早期社会復帰を可能にしています。 
LDH Fig1

腰椎変性疾患に対する局所麻酔下内視鏡手術

腰の代表的な病気として「腰椎椎間板ヘルニア」や「腰部脊柱管狭窄症」があります。いずれも背骨の中を通る神経が、何らかの原因で圧迫され、腰から足にかけての痛みやしびれを引き起こします。

手術が必要な場合、従来は多くが全身麻酔下で行われ、背中を3?5cmほど切開して、原因となる部分を取り除く方法が取られてきました。しかし、全身麻酔による身体への負担や、背中の筋肉を一部剥がすことによる侵襲、また約2週間の入院が必要であるなど、患者さんにとって負担が大きいという課題がありました。

当科では2023年5月より関連施設で、2025年4月からは万博体育3.0手机版附属病院でも、直径8mmの内視鏡を用いた小切開?局所麻酔で行う「全内視鏡下脊椎手術」を導入しました(図1)。この手術は身体への負担が少なく、術後2時間程度での歩行が可能で、最短で手術翌日に退院することも可能です(図2)。

さらに、腰椎の高度な変性に対しては、インプラントを用いた「腰椎椎体間固定術」も内視鏡下で低侵襲に行っています(図3)。ただし、この固定術は全身麻酔が必要であり、患者さんの全身状態や病状に応じて慎重に適応を判断しています。

fess1
図1
fess2
図2
fess3
図3

脊柱側彎症

脊柱が側方に曲がっている状態を脊柱側彎症と呼び、通常椎骨のねじれも伴います。両肩とウエストの高さの左右差や、前屈した際に背中の高さに左右差を認めます(図1)。原因がはっきりしない特発性側弯症や、生まれた時より椎骨の形態異常がある先天性側弯症、原因疾患が基礎にある症候性側弯症に区分されます。原因疾患には神経繊維症やマルファン症候群、脳性麻痺などがあります。治療は成長の程度と脊柱の側弯の程度から判断し、彎曲が軽い場合は経過観察、彎曲が中等度(20-30度以上)の場合は装具治療を行います。装具治療は彎曲が悪化しやすい成長期に行い、骨格が成熟した時点で彎曲が高度に進行しなければ治療終了となります。彎曲が大きい場合は骨性成熟後も徐々に悪化し、腰痛や姿勢障害、肺や消化器の機能障害の原因となる可能性があるため、これらの予防のため適切なタイミングでの手術治療が勧められます。また、高度な側弯となることの多い脳性麻痺や二分脊椎、筋ジストロフィーなどの神経筋原性側弯症に対する治療も行なっています。手術は電気刺激による脊髄のモニタリングを用いて安全に行います(図2:特発性側弯症 図3:症候性側弯症)。
脊椎側彎症 Fig1
図1
側弯2
図2
側弯3
図3

成人脊柱変形

近年、加齢に伴う脊柱の変性や骨粗鬆症に伴う椎体圧潰を基盤とした成人の脊柱変形が増加しています。左右や前後の体幹バランスをとることが難しくなり立位や歩行が困難となる場合には、薬剤やコルセット,リハビリテーションによる保存治療を行いますが、日常生活動作が強く障害される場合には手術加療(側方経路腰椎椎体間固定術,Lateral lumbar Interbody Fusion: LIF など)を行います。この手術は日本では2013年より承認され、海外研修などで実施許可を取得した医師と特定の施設にのみに実施が可能な手術となっております。側腹部に傷を加え大腰筋前縁を経由して椎間板へアプローチを行うことで、従来法と比べ背筋や椎間関節への損傷が小さくすることができ、この他にも可能な限りの低侵襲手技を用いることで、出血量や合併症の低減を目指しています(図1)。
成人脊柱変形 Fig1
図1

後縦靱帯骨化症

背骨の椎体の後ろで、脊髄神経の前方にある後縦靭帯が何らかの原因で骨化(骨に変化:?)して、骨化により脊髄神経が圧迫される病気です(図1)。頸椎症性脊髄症と同様の症状(手足のしびれ、運動障害、ふらつき)が出ますが、薬物療法や装具療法でも症状が進行する場合は手術療法が必要となります。当院では脊柱管拡大術や、スクリューを用いた後方除圧固定術(図2 )、骨化部分を直接取り除く前方除圧固定術(図3)を症例に応じて行なっています。 
OPLL Fig1

脊椎感染症

脊椎にある椎間板は血流がない組織であり、感染をおこすと抗生剤が効きにくく長期的な治療を要します。化膿性椎間板炎の基本的な治療は抗生剤治療と装具治療ですが、当院では経皮内視鏡を用いた低侵襲な治療(図1 経皮的内視鏡下椎間板切除術)も行なっています。また、感染により骨の破壊が進む場合には後方固定術(図2)や前方再建術を行う場合もあります。 
脊椎感染症 Fig1

脊椎腫瘍、脊髄腫瘍

脊髄およびその周囲組織にできる腫瘍の総称で、脊髄,神経根、あるいは脳脊髄を包む硬膜、更にその周囲にある脊椎(骨)から発生します。頻度が高いのは、硬膜の内側の腫瘍では神経鞘腫や髄膜腫といった良性腫瘍で、硬膜の外側の腫瘍では「がん」の転移性骨腫瘍(悪性)です。良性と悪性では治療方針が全く異なるため、“正確な診断”が最も重要と考えています。当院には、空間解像度の高い3T MRI装置(図1)や、がん組織の検出に優れたPET/CT装置(図2)があり、正確な画像評価が行えます。また病理医と連携し骨生検(図3)による組織診断も可能です。治療は各科と連携して行っており、腫瘍の大きさや種類によって、腫瘍切除,放射線照射や化学療法といった治療を選択しています。腫瘍切除の際には、顕微鏡,超音波メス,脊髄モニタリングなどを用い、低侵襲かつ安全な手術を心がけています。
脊椎腫瘍 Fig1

骨粗鬆症性椎体骨折

骨粗しょう症を背景に軽微な外傷により脊椎で骨折が発生します。発症初期には、強い痛みを伴い慢性期になると姿勢異常が出現します。椎体骨折の治療法としては保存治療がメインとなりますが、痛みが取れない場合には、骨折した椎体内にバルーンを入れ、それを膨らませること椎体を広げて骨セメントを入れるBKP(Balloon Kyphoplasty)を行います。手術は30分~1時間以内に終わり、術後は通常数日~1週間で退院できます。姿勢異常が強い場合は、脊椎インストゥルメンテーションを用いて脊椎を固定?矯正する手術を行う場合もあります(図2)。我々は患者さんの病態に応じて、最適な治療を行うことを心がけています。